『財団法人 日独文化研究所平成21年度賛助会員年次総会』は、2009年11月20日(金)午後4時より、クラブ関西において、アレクサンダー・オルブリッヒドイツ連邦共和国総領事をはじめご来賓、賛助会員の方々及び本研究所役員等多数のご出席を得て開催されました。
 総会では、木村敏理事の挨拶、オルブリッヒ総領事のご祝辞をいただいた後、大橋良介理事に「サスティナビリティが意味するもの」と題してご講演いただきました。懇親会には、モーツァルト室内管弦楽団による演奏の後、西島安則氏(元京大総長)の乾杯により懇親会が始まり、終始なごやかな雰囲気のうちに午後8時に終了しました。
 なお開催にあたり、格別なご支援を賜りましたヤンマー株式会社、キンシ正宗株式会社、株式会社明通およびクラブ関西の各社に対し、ここに記して重ねて厚く御礼申し上げます。

西島先生による乾杯

モーツァルト室内管弦楽団の演奏

懇親会の様子

祝辞 
ドイツ連邦共和国総領事 アレクサンダー・オルブリッヒ

日独文化研究所の友人そして賛助会員の皆様。
ほんの数ヶ月前に大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事に着任したばかりの私にとりまして、本日、日独文化研究所賛助会員年次総会で皆様方に挨拶することができ、大変光栄です。
さて、ただ今、案内頂きました様に、本日、岡本先生はご欠席ですが、少しでも早い健康回復を祈るばかりでございます。


このあと、大橋先生からドイツでも有名な西田幾多郎の哲学についての講演と、モーツァルト室内管弦楽団カルテットの演奏が予定されており、本日の催しが大変興味深いものになること請け合いです。それだけに他の公務のために、すぐに退席せねばならないこと、私として残念であります。


さて昨年度、日独文化研究所が開催した哲学講座は興味のある聴衆に常に強く訴えるものでしたし、京都ドイツ文化センターの業務を補完する意味でも、大変意義深いものでした。このような発案に心から感謝します。皆様方の協会がその業務においてドイツと深く係わっておられますが、これはドイツ連邦共和国を代表する私にとって極めて重要であることは言うまでもありません。そして決定的な役割を果たすのは、何といっても二つの地理的に離れた国の間の活発な文化交流であるという、協会の創設に大きく関与された山岡孫吉様の意見に私は賛同するものであります。


まさにこのような交流が、京都市の文化機関や大学の支援もあって2011年からドイツ文化センターの業務の中心となります。独日国交樹立150周年に合わせて、新しい改装された建物の中で、毎年12人の奨学金を得たドイツ人が3ヶ月に渡って、日本の偉大な文化と出会うことになります。京都の人々によっては活動中のドイツ人芸術家と知り合ったり、改装なった図書館でドイツについての知識を深めたり、ドイツ風のカフェでドイツの味を堪能するチャンスが芽生えます。このように日独友好は京都で3つの柱にしっかりと支えられることとなります。つまり哲学や芸術はもとより食文化もその一端を担う訳で、このような機能を持つドイツ文化センターは京都がアジアで始めてとなりますし、京都に相応しいものになります。


財団法人日独文化研究所並びに50年以上に渡ってその業務を支えて下さっている皆さんに、その日独交流推進に向けた取り組みに感謝します。日独文化研究所、並びに岡本先生ほか関係者、そして出席の皆様のご発展とご健勝を祈って私の挨拶とさせて頂きます。

2009年度賛助会員年次総会におけるご挨拶
財団法人 日独文化研究所 常務理事 木村敏

 ただ今ご紹介いただきました、本研究所の常務理事を務めております木村でございます。本来ならば本研究所理事長・所長の岡本道雄がご挨拶申し上げるべきところでございますけれども、今も事務長から申し上げましたように、生憎、つい十日ほど前から少し体調を崩しまして、現在、入院療養中でございます。幸い経過は非常に宜しく、もう間もなく退院となるのだろうと思いますけれども、なにぶん高齢で、もうこの二十五日には九十六歳になるということでございます。やはり本日の出席は、どう考えても無理だろうということで、急遽、私がかわってご挨拶を申し上げることになりました。なお、岡本理事長からは本日の年次総会に向けたメッセージのようなものをお預かりしておりますので、後ほどそれを代読させていただきたいと存じます。
 賛助会員の皆様、並びに関係者の皆様には、日頃より本研究所に対しまして温かいご支援をいただき、まことにありがとうございます。本日、平成二十一年度賛助会年次総会を開催させていただきましたところ、大変お忙しいところ多数のご出席を賜りまして、特にドイツ連邦共和国のオルブリッヒ総領事様、ヤンマー株式会社の関係者の皆様、それに元京都大学総長の西島安則先生にもお出でいただきまして、大変感謝している次第でございます。
 本研究所が昭和三十一年三月に創立いたしまして以来、日独両国の学術文化の研究、並びに両国の交流と親交という設立の主旨に沿いました各種の事業を展開することができておりますのは、ひとえに皆様方の絶大なご支援によるものと深く感謝申し上げる次第であります。日本とドイツの学術文化の研究と申しましても、自然科学・医学・文学・芸術と、実に多岐にわたるわけでありますけれども、なかでもドイツ文化が世界をリードしてきた重要な分野として、まず第一に哲学を挙げなくてはなりません。現在の世界の哲学は、日本の哲学も含めまして、ドイツ哲学の貢献なしには考えられないわけでございます。本研究所は平成十八年に創立五十周年を迎えましたが、それを契機といたしまして、特に岡本理事長の強い意向によって、その研究の重点を日独両国の哲学に置いていこうということにいたしました。幸いと言いますか、たまたまと申しますか、現在の本研究所の理事の中には、我が国の哲学界に重きをなしている何人かの研究者がおります。その理事たちを中心にして、これも岡本理事長の強い希望を受けまして、「科学技術文明と人類の将来について」という基本テーマを掲げ、当面の活動を続けて参りたいと考えている次第であります。皆様のお手元にお届けしてあるかと思いますが、本研究所の年報『文明と哲学』もその主旨で昨年来、発行しているものであります。
 この年次総会は、年に一度、皆様に直接お目にかかれる機会でございますので、少しでも皆様に喜んでいただけますよう、岡本理事長以下、私ども一同で工夫を重ねてプログラムを作成いたしております。そして、毎年の総会では様々な分野の優れた研究者の方に講演をお願いして参りましたのを、本年は岡本理事長自身が「本研究所の新しい出発(西田哲学)」と題してお話をさせていただく予定をしておりました。ところが最初にも申し上げましたように、岡本理事長が出席出来ないという不測の事態に立ち至りました。そこで、これにかわるものといたしまして、先ほど申しました、岡本理事長のメッセージを代読させていただきます。以下、岡本理事長のメッセージでございます。


 「本研究所は日独文化研究所でありますので、その本務は日本とドイツの文化の研究であります。文化とは何であるか。私は過去の大学紛争の哲学的背景を追究しているうちに、大学紛争の張本人であるドイツの哲学者マルクーゼの思想は、この文明の嘘を露呈することであるということを発見しました。マルクーゼは文明と文化という言葉の区別をつけておりませんが、私はこれがフロイトのいう文化であるということを思いつきました。フロイトが文化に対して一生をかけた研究の最終的な成果は、文化におけるUnbehagen(Das Unbehagen in der Kultur)という論文であります。これを日本では、「文化に対する不満」または、「不安」と訳していますが、私は敢えてドイツ語の原語Unbehagenのままにしておきます。私の関心は既に繰り返し申しておりますように、専ら近代文明と人類の未来にありましたが、フロイトのいう文化はまさにこの文明であり、彼は一生、彼の主張してきた文化に対して、結論としてUnbehagen――Unbehagenとはあえて訳せば「居心地の悪さ」ぐらいの意味でございますが――を持つに到りました。
 一方私は、日本の文化を考えるにあたって西田幾多郎の重要な著作である『日本文化の問題』を読み、そのなかで西田が、「日本文化なるものは、彼の哲学の中心をなす絶対矛盾的自己同一である。世界及び人類の本体は、いわゆる絶対無である」という結論に到ったことを発見いたしました。皆様もご承知の通り、この文明の問題は、近代科学技術文明と人類の将来の問題として世界的な課題となっておりますが、その議論の多くは科学技術による人類の繁栄とその弊害、さらに地球環境の問題などに終始していて、文化そのものの根底に迫る議論は少ないのであります。人間の心に関する科学としてはフロイトによる精神分析があり、哲学のレベルで文化の本質に迫ったものとしては西田哲学があります。その後、原子爆弾という科学技術の最先端が出現し、日本が世界唯一の被爆国となったことを考えますと、日本の哲学者である西田幾多郎の哲学を考えることによって、文明の問題を哲学的に探求することは、人類に対する我々の責務であります。これが本研究所五十周年における再出発の理念として、私が考えていることであります。本研究所はその本来の目的として、この重大な人類的課題に哲学的に取り組んで参りますので、本日ご出席を賜ったドイツ総領事、そして賛助会員の皆様にも絶大なご協力をお願いしたいと存じます。」


 以上が岡本理事長からのメッセージでございます。そんな事情でございますので、講演者としては、岡本先生にかわりまして本研究所の理事である龍谷大学教授の大橋良介氏にお願いして、「サステナビリティが意味するもの――西田哲学の視点から」と題する講演をしていただくことにいたしました。大橋さんは、西田哲学を直接に継承する京都学派の中心人物として、ドイツでも最もよく知られた日本人哲学者でありますので、本研究所の目指しております方向から見て最適な講演者であろうかと考えております。
 それから、いつも講演の後で皆様に楽しんでいただいております音楽の演奏といたしましては、これは予定通り、岡本理事長がその創設以来、熱心に賛助して参りましたモーツアルト室内管弦楽団のメンバーによる演奏をお聞きいただくことにしております。どうか十分ご観賞いただけましたらと存じます。
 日頃、私どもを支えていただいております賛助会員の皆様、本研究所のためにご尽力頂いております関係者の皆様方に、いま一度、厚く御礼を申し上げるとともに、皆様方のますますのご活躍を祈念して私のご挨拶とさせていただきます。どうもありがとうございました。